2024年7月19日

派遣労働者の安全衛生の確保について解説



派遣労働者への安全衛生教育は、派遣元事業主と派遣先事業者の両方にとって重要です。具体的には、派遣労働者の雇用時や作業内容変更時に、派遣元事業主が安全衛生教育を実施する必要があります。また、製造業などの工業的な業種だけでなく、販売や事務職など、労災が発生する可能性が低い業務でも安全衛生教育が必要です。


この記事では派遣労働者の安全衛生教育について解説していきます。


派遣労働者の安全衛生とは



安全衛生は職場内で労働者の安全と健康を保護し、快適な労働環境を整えるための対策です。
その対策の内容としては、


①労働者が安心して働ける環境を整え、労働災害や職業病の予防する 

②労働者が安全に作業できるよう適切な作業環境を提供する 

③健康診断や適度な休憩を与えるなど、労働者の健康管理を行う

などが挙げられます。

安全衛生の重要性



厚生労働省は、派遣労働者の労働条件と安全衛生の確保に取り組むよう、法令の遵守を求めています。

安全衛生対策は、派遣元事業主と派遣先事業主の連携が重要です。具体的には、派遣先事業主が派遣労働者の危険や健康障害を防止するための適切な措置を現場の状況に即して講じる必要があります。


派遣労働者は一般的に経験年数が短いことを考慮し、派遣先事業者は特に注意を払うべきです。派遣元と派遣先が責任を理解し、連携を図ることで、派遣労働者の安全衛生の確保につながります。

安全衛生教育の課題



派遣元と派遣先事業主の連携が不十分で、労働時間の適切な管理が行われず、割増賃金が支払われない、機械の安全対策が不足している、雇用時や作業内容変更時の安全衛生教育や健康診断が行われていないなどの問題も見られるのが現状です。

派遣労働者の安全衛生教育を適切に行うために、派遣先は派遣労働者が従事する業務に関する情報を積極的に派遣元に提供する必要があります。また、派遣元から教育カリキュラムの作成支援などの依頼があれば、派遣先は協力するよう努めるなど、連携を密にして取り組むことが重要です。

法的規定と責任



派遣元と派遣先の責任区分



派遣労働者の安全衛生については、労働安全衛生法が関連しています。派遣労働者を雇用している雇用主(派遣元)と、実際の仕事を指揮・監督する事業主(派遣先)が異なるため、以下のように責任区分があります。

派遣元の責任

・雇入れ時の安全衛生教育 

・労働契約関係にある派遣元は、派遣労働者の一般的な健康管理などに責任を負います。

・安全管理全般に関する事項は派遣元が担当します。

派遣先の責任

・派遣先は、派遣労働者の具体的な仕事に伴う衛生管理に責任を負います。

・危険防止または健康障害の防止措置を講じ、危険性又は有害性等の調査などの実施 

・指揮命令関係にある派遣先は、就業に伴う具体的な安全衛生対策を実施する役割を担います。

双方の責任

・作業内容変更時の安全衛生教育

・健康診断実施後の作業転換等の措置 など

派遣元と派遣先は、連携して派遣労働者の安全と健康を確保することが重要です。

派遣元・派遣先の責任区分について詳しく知りたい場合は、最寄りの都道府県労働局、労働基準監督署にお問合わせください。

実施すべき安全衛生対策


それでは派遣元事業主と派遣先事業主では、それぞれどのような実施事項があるのか、整理してみましょう。

派遣元が実施すべき事項

 

1. 安全衛生管理体制の確立



派遣元は、派遣労働者を含めた安全衛生管理体制を構築しなければなりません。

派遣労働者を含め算出した常時使用する労働者の数に応じ、総括安全衛生管理者や衛生管理者、産業医の選任などを行います。

派遣労働者を雇い入れた時や、派遣先の変更など作業内容を変更した時は、遅滞なく安全教育を行う必要があります。

2. 健康診断と事後処理


具体的には常時雇用の派遣労働者に対し、雇い入れの際、その後1年以内に1回、健康診断を行ってください。また、深夜業に従事する派遣労働者などに対しては、配置換えの際及び6カ月以内ごとに1回、定期的に健康診断を行うことが求められます。

健康診断は、健康状況を把握し、職場における健康阻害要因による影響を早期に発見するためだけでなく、就業の可否や適切な配置を判断し、必要な保健指導を行うために実施されるものです。したがって、健康診断後の適切な対応が重要になります。

3. 長時間労働に関する面接指導


時間外・休日労働時間が1カ月当たり100時間を超えるなどの長時間労働について、医師による適切な面接指導を行うようにしてください。

4. 心理的負担の把握


心理的な負担を評価するための検査などを実施し、派遣労働者の心身の健康を保持・増進します。

5. 就業制限業務には有資格者を派遣する


派遣労働者が就業制限業務に従事する予定の場合、その業務に適格な資格を持つ者を派遣してください。

<就業制限業務の例>

・クレーン(つり上げ荷重5トン以上のもの)、移動 式クレーン(つり上げ荷重1トン以上のもの)の運転 

・ 玉掛け作業(つり上げ荷重1トン以上のクレーン、 移動式クレーンに係るもの)

 ・フォークリフト等荷役機械(最大荷重1トン以上 のもの)の運転 

・ ガス溶接 など

派遣先が実施すべき事項

 

1. 派遣労働者を含め安全衛生管理体制を確立



派遣先事業主は、派遣労働者を含め算出した常時使用する労働者数等に応じて、安全管理者、衛生管理者、産業医等を選任し、派遣労働者が安全に職務を行えるよう、安全衛生管理体制を整備が求められます。

また、安全衛生委員会等を設置し、派遣労働者の安全衛生に関する事項も含め、必要な調査審議を行うようにしましょう。

2. 派遣労働者の危険又は健康障害を防止するための措置



製造業における労働災害では、機械などへはさまれる、巻き込まれる、転倒災害など各種の労働災害が発生しています。災害を未然に防ぐために、機械等の安全措置など派遣労働者の危険又は健康障害を防止するための措置を適切に実施しなければなりません。

3. 危険性又は有害性等の調査等を実施



派遣労働者が従事する作業について、危険性や有害性などを調査し、その結果に基づいて、機械の本質的な安全性向上や化学物質のばく露防止などのリスク低減措置を講じてください。

4.  安全衛生教育等を適切に実施



派遣先は、派遣元による雇用時や作業内容変更時の安全衛生教育の実施結果を派遣元に書面で確認してください。また、派遣労働者が異なる作業に転換した場合や作業設備や方法に大幅な変更があった場合には、作業内容変更時の安全衛生教育を行うようにしてください。

派遣元との連携について



安全衛生教育の適切な実施のためには、派遣先の協力が必要不可欠です。

具体的には以下のような事項で協力・配慮が必要です。

▼労働者派遣契約の内容が適正か?

派遣先は、労働者派遣契約に従って派遣労働者を労働させた場合に、労働基準法違反等が生じないよう、派遣契約の内容を派遣元に十分に確認が必要です。


▼労働時間についての連絡体制を確立

派遣先は、派遣元での36協定の内容等について情報提供を求めましょう。

また、派遣先は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」に基づき把握した労働時間を派遣元に正確に通知するようにしましょう。


▼安全衛生教育に関する派遣先の協力や配慮

派遣元から教育カリキュラムの作成支援などの依頼があった場合、派遣先は積極的に対応するよう努めましょう。派遣先で作業内容変更時の教育を実施したときは、その結果を派遣元に書面で報告してください。


▼健康診断に関する協力や配慮


派遣先は、派遣労働者が派遣元の実施する一般健康診断を受診できるよう必要な配慮をしてください。派遣元から一般健康診断の結果に基づく派遣労働者に対する就業上の措置について要請があった場合、派遣先は協力するよう努めましょう。

 派遣元の講じる再発防止対策への協力

派遣先は、派遣元に対して、労働災害の原因や対策について必要な情報を提供し、派遣元での安全衛生教育や同種業務の派遣労働者への情報提供が行えるようにしましょう。


▼定期的に会合を開催


派遣先は、健康診断や安全衛生教育、労働者派遣契約で定めた安全衛生に関する事項の実施状況や、派遣先が行っている安全衛生活動への派遣労働者の参加について、派遣元と連絡調整を行ってください。

報告と監督について



労働者死傷病報告の提出


派遣労働者が派遣先にて労働災害に被災したことを把握した場合は、派遣先から送付された所轄の労働基準監督署に提出した労働者死傷病報告の写しの内容を考慮し、労働死傷報告を作成し、派遣元事業所の所轄する労働基準監督署に提出することが求められます。

実施結果の確認と報告


派遣先から労働災害の原因や講ずべき対策などについての情報を入手し、再発防止に役立てることが重要です。

労働災害の原因や講ずべき対策について、必要に応じて派遣先事業場に情報提供を依頼し、雇入れ時教育に役立てるほか、労働災害が発生した業務と同種の業務に従事する派遣労働者への情報提供を行い、災害を未然に防ぐよう対策を講じましょう。

まとめ



派遣労働者の安全衛生に関する職務は、派遣元事業者と派遣先事業者の両方に課せられています。派遣労働者の安全衛生について、事業者は総括安全衛生管理者を選任したり、安全委員会を設置したりすることが義務づけられています。

 

安全衛生教育は外国人労働者にも適用されます。その際、労働条件の明示や安全衛生教育の実施、労働災害防止に関する標識、掲示等について、外国人労働者がその内容を理解できる方法で行う必要があります。労働災害防止のための日本語教育等を実施することも求められます。

 

派遣労働者の安全衛生管理の責任は原則として派遣元にありますが、現場作業に関することは特例で派遣先の事業者にも適用されます。

 

適切な安全衛生教育の実施のためには、派遣元と派遣先の連携が必要不可欠です。

労働者の安全と健康を保護し、快適な労働環境を整えるためにも、安全衛生についての理解を深め、適切な実施を心がけましょう。