2024年6月21日
派遣労働者のテレワークできる?できない?留意点などを解説
新型コロナウイルスの流行以降、日本でもテレワークは急速に一般的な働き方となりました。時間や場所にとらわれない効率的な働き方である一方、デメリットも存在します。本記事では、テレワークの中でも派遣社員にフォーカスして、テレワークのメリットと課題、そして未来の働き方について探っていきます。
テレワークの普及とその重要性
新型コロナウィルス感染症の影響もあり、日本でも多くの企業がテレワークを取り入れるようになりました。
内閣府が令和4年7月22日に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、2022年6月時点で全国のテレワーク実施率は30.6%となっており、コロナ以前の2019年12月時点の10.3%を大きく上回っています。
東京などの大都市圏ではテレワーク実施率は高く、地方では実施率が大きく下がるなど、地域差もありますが、この間の数年で、大きく労働環境が変わったことが分かります。
テレワークは時間や場所を有効に使う働き方であり、子育て世代やご障害のある方も含め、個人に合わせ柔軟に対応できる点が魅力です。これからも1つの働き方として、広く広まっていくものと思われます。
派遣労働者はテレワークできるのか?
結論から言いますと、派遣労働者もテレワークを実施することはできます。派遣労働者のテレワークについては、一層活用の促進を図ることが推進されています。しかし、以下の点には注意が必要です。
契約内容の変更
派遣労働者がテレワークにより就業を行う場合、労働者派遣契約の一部変更が必要になる場合があります。具体的な派遣就業の場所を契約に記載することが必要となります。
就業条件の明示
労働者派遣法第34条に基づき、派遣先の事業所だけでなく、具体的な派遣就業の場所を就業条件明示書に記載するとともに、所属する組織単位及び指揮命令者についても明確に記載することが求められます。
プライバシーの保護
派遣労働者が自宅でテレワークを実施する場合、派遣労働者のプライバシーに配慮が必要です。例えば、電話やメール、オンラインでの面談などを通じて就業状況を把握することができる場合には派遣労働者の自宅まで巡回する必要はありません。
公正な待遇の確保
派遣労働者であることのみを理由として、一律にテレワークを利用させないことは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正された労働者派遣法の趣旨・規定に反する可能性があります。
以上のように、派遣労働者がテレワークを行う場合、契約内容の変更や就業条件の明示など、様々な点を考慮する必要があります。
また、派遣労働者であることのみを理由として、テレワークを利用させないことは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正された労働者派遣法の趣旨・規定に反する可能性があるとされています。
派遣労働者のテレワーク導入に対しては、様々な点を留意しながら適切に行われる必要があります。
派遣労働者のテレワークのメリット・デメリット
派遣社員は、正社員同様にテレワークで働くことができますが、いくつかの注意点があります。厚生労働省は派遣社員へのテレワーク導入を推奨していますが、実際には導入が進まないケースもあります。
ここでは派遣社員がテレワークを行う際のメリットとデメリットについては以下のようになります。
メリット・デメリットを把握することで、導入の検討に役立てることができます。
派遣労働者のテレワークのメリット
▼コスト削減
テレワークを導入することで、交通費やオフィスにかかる費用(賃料や設備管理費など)を削減できます。また、勤務エリアにとらわれないため、より広範囲のエリアから採用することが可能になり、採用コストの削減も期待できます。
▼離職の防止・多種多様な人材確保
出産や育児、親の介護など、今までは離職せざるを得ない状況だった方でも、テレワークが可能な仕事であれば、離職することなく、そのまま働き続けることができます。
新たな人材の確保よりも、スキルや経験を持つ既存人材の流出防止は大きなメリットがあります。また、地方や海外在住の優秀な人材を採用できる可能性が広がるなど、多種多様な人材の獲得も期待できます。
▼ワークライフバランスの向上
自宅での勤務により、通勤時間もなくなり、よりゆとりを持った生活が可能になります。通勤がなくなくことで、通勤ストレスもなくなります。これにより時間にゆとりも生まれ、家族との時間や自分のための時間を増やすことができ、身体的にも精神的にも健康的な状態の維持につながります。
派遣労働者のテレワークのデメリット
▼生産性の低下
テレワークの経験が浅い場合、在宅勤務になると生産性が下がる可能性があります。その理由としては、環境の違いにあります。オフィスとは違い、自主性も求められるため、自己管理次第では集中力が持続しないことがあります。また、コミュニケーションが少なくなることで、孤独感を感じやすくなり、モチベーションの低下につながりやすくなります。
▼仕事とプライベートの区別が曖昧になる
テレワークでは、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。自宅で仕事をすると、仕事とプライベートの切り替えが難しくなり、時間配分のバランスが崩れやすくなります。
▼労務管理の難しさ
派遣先は、テレワークの場合でも通常のオフィス勤務と同様、派遣先管理台帳に始業・終業時間や休憩時間を記載し、派遣元に通知する必要があります。また、サービス残業をしてしまいやすい可能性もありますので注意が必要です。
▼セキュリティリスクの増加
情報セキュリティが大きな課題になります。USBメモリ等などを経由した情報漏洩のリスクや作業環境の脆弱性によるリスクなど、考慮すべき点は様々です。機密情報などを取り扱う業務の場合は、会社と同レベルのセキュリティ対策が求められます。
ファイヤーウォールやセキュリティソフトの導入やVPN接続を活用したセキュアな通信の確保など、セキュリティ対策を行いながら、リスクを最小限にとどめることが必要です。
以上のように、テレワークは多くの利点を持ちつつも、その実施には注意が必要です。
しかし、テレワークは新しい働き方として、普及が進んでいくものと思われます。
派遣先企業による必要な対応について
テレワークはうまく活用することで、業務の効率化を図ることができますが、より円滑に進めていくためには以下に挙げるような事項について留意する必要があります。
厚生労働省のガイドラインに基づいた適切な労務管理
派遣先企業は、厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に従って、派遣社員の雇用管理を行いましょう。
始業・終業時刻の記録や休憩時間の管理、時間外労働の割増賃金支払いなどを適切に行いましょう。
テレワーク環境整備
テレワークを行う作業場が自宅等である場合には、情報機器ガイドライン等の衛生基準と同等の作業環境とすることが望ましいです。作業を行うにあたり、作業効率の低下につながらないよう、必要な機器の整備などに努めましょう。
安全衛生関係法令の適用
テレワークによるコミュニケーション減少が孤独感を生みます。また、ICT(情報通信技術)が苦手な方は、テレワーク自体にストレスを感じることもあります。このような状況の場合、派遣労働者の心身状態の把握は難しいものではあるものの、ストレスチェック制度の活用や業務の進め方の見直しなど、適切な対策を講じることで、テレワークを行う派遣社員の健康維持を図ることが重要です。
費用負担
テレワークを行うことによって生じる費用(機器などの費用負担)について労使のどちらが負担するか等を、トラブル防止の観点からもあらかじめ労使間で十分に話し合い、就業規則等に定めておくことが望ましいです。
派遣労働者のテレワークにおけるよくある質問
▼テレワークのみの就業は可能か?
派遣社員がテレワークのみで就業することは、可能です。ただし、以下の点に留意する必要があります。
・自宅等の具体的な派遣就業の場所を記載すること
・派遣労働者と打合せの際、派遣先の事業所等で就業する可能性がある旨の明記
・派遣元責任者及び派遣先責任者に迅速に連絡をとれるようになっていること
・「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に基づいた雇用管理が必要であること。
▼派遣先での派遣労働者に対する指揮命令は、対面である必要があるか?
派遣先での派遣労働者に対する指示や命令は、必ずしも対面で行う必要はありません。業務の性質や内容に応じて、テレワーク中でも適切な指示を行いながら業務を遂行できるかどうかを個別に検討するべきものです。
▼派遣元事業主による派遣労働者の自宅(職場)を巡回する必要があるか?
派遣労働者のプライバシーを考慮しつつ、就業状況を確認する際には、電話やメール、ウェブ面談などを活用することで、派遣労働者の自宅まで巡回する必要はありません。
なお、派遣労働者のテレワークが労働者派遣契約に適合して適切に実施されているかどうかを確認するために、以下の方法が考えられます。
①指示命令の合意
派遣先と派遣労働者は、テレワーク中の指示命令の方法をあらかじめ合意し、労働者派遣契約などで明確に定めておくべきです。
②日々の報告
派遣労働者が日々の業務内容に係る報告を書面(メールなども含む)で提出することで、就業状況を確認できます。
まとめ
派遣社員のテレワークは、労働者保護の観点からの法改正も進んでおり、市場規模が拡大しています。テレワークは派遣先企業と派遣労働者の協力があってこそ成り立ちます。適切なIT環境やセキュリティ対策を整えつつ、セキュリティリスクを最小限に抑える必要があります。
テレワークを検討中の事業主も多いですが、テレワークは柔軟な働き方を実現し、生産性向上やワークライフバランスの改善に寄与することも期待されており、今後も利用拡大が進むものと思われます。