2024年2月15日

キャリアアップ助成金|派遣から正社員への受け入れに活用したい助成金



キャリアアップ助成金は、非正規雇用の労働者の正社員化や待遇改善を後押しする国の助成金制度のひとつです。派遣社員から正社員に転換する場合も対象となり、派遣会社や派遣社員を雇う事業主はうまく活用することで多くのメリットがあります。本記事では、このキャリアアップ助成金の概要や申請方法などについて解説します。


キャリアアップ助成金とは?



キャリアアップ助成金とは、派遣労働者などの非正規雇用労働者を、正社員化・待遇改善した場合に事業主が受給できる助成金制度のことです。企業内のキャリアアップを促すことで、従業員の労働意欲向上や事業主の優秀な人材確保を図る目的があります。(派遣社員が受給できる助成金ではありません)

キャリアアップ助成金には、主に「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つの枠があり、その中で7つのコースに分けられています。特によく活用されているのが「正社員化コース」です。今回はこの「正社員化コース」に焦点をあててご紹介していきます。

派遣社員も対象!キャリアアップ助成金の正社員化コース



正社員化コースは、非正規労働者を正規雇用労働者として直接雇用した場合に助成されます。非正規労働者は、もちろん派遣社員も対象です。派遣社員が有期雇用か無期雇用かによって、助成額は次のように異なります。

  • 有期雇用派遣労働者:1人あたり85.5万円〈108万円〉

  (大企業の場合:1人あたり71.25万円〈90万円〉)

  • 無期雇用派遣労働者:1人あたり57万円〈72万円〉

  (大企業の場合:1人あたり49.875万円〈63万円〉)

※〈〉内は生産性の向上が認められた場合の額

無期雇用の派遣社員より有期雇用の派遣社員の方が助成額が大きく、大企業より中小企業の方が助成額が大きいのがわかります。

有期雇用と無期雇用の違いについては詳しくはこちら>

2023年11月の拡充点



キャリアアップ助成金の正社員化コースは、2023年11月29日に制度の内容が拡充されました。拡充点は次の4点です。

  • 6ヵ月あたりの助成額を拡充:

〈中小企業〉57万円→80万円〈大企業〉42.75万円→60万円

  • 対象となる要件緩和:

有期雇用労働者の雇用期間を「6ヵ月以上3年以内」→「6ヵ月以上」

  • 加算措置の新設:

新たに正社員転換制度を規定し、転換した場合20万円を加算

  • 制度規定に関する加算額を増額:

「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を新たに規定し、転換した場合の換算額を9.5万円→40万円に増額

助成額や加算額が増え、要件が緩和されたことでよりキャリアアップ制度を活用しやすくなりました。さらに詳しい変更点については、こちらをご確認ください。

助成金支給の要件



助成金を受給するには、対象となる事業主・従業員にいくつかの要件が設けられています。それぞれ主な要件をご紹介します。

■対象となる事業主の主な要件



事業主側の主な要件は次のとおりです。

  • 雇用保険・社会保険に加入していること。
  • 派遣労働者を正規雇用労働者または多様な正社員として直接雇用する制度を労働協約または就業規則その他これに準じるものに規定している事業主であること。
  • 派遣先の事業所その他派遣就業場所ごとの同一の組織単位において6か月以上の期間継続して労働者派遣を受け入れていた事業主であること(6か月以上の期間継続して派遣就業していた同一の派遣労働者を直接雇用した場合に限ります。)。
  • 直接雇用された労働者に対して直接雇用後6か月分の賃金を支給した事業主であること。

※上記が主な要件となりますが、ほかにも支給要件があります。


■対象となる従業員の要件


従業員側の主な要件は次のとおりです。

  • 雇用期間が6ヵ月以上の労働者であること。
  • 正規雇用を約束して雇い入れた者でないこと。
  • 過去3年以内に同一の派遣先で正規雇用されていないこと。

※上記が主な要件となりますが、ほかにも支給要件があります。

詳しくは厚生労働省のHPで最新の情報をご確認ください。

〈派遣先・元〉派遣社員を正社員雇用する努力義務



そもそも派遣先・派遣元のいずれも、派遣社員を正社員雇用する努力義務が課せられているのはご存知でしょうか。

派遣社員は派遣法の「3年ルール」によって、同一の派遣先で働けるのは原則3年と決められています。このルールがあることで、派遣社員は3年で雇い止めとなることがあります。しかし2015年より施行された「雇用安定措置」により、派遣先・派遣元企業は派遣期間が終了したあと、派遣社員を正社員化を促す努力義務ができたのです。

派遣社員に対してあらかじめ「雇用安定措置」に関するヒアリングは義務化されています。派遣期間が終了したからといって、安易に雇い止めはできないので注意が必要です。

国は派遣社員を正社員として雇用することを推進しています。派遣社員の正社員化は、事業主と従業員の双方にメリットがあります。派遣社員の派遣期間が終了する前に、キャリアアップ制度を活用して正社員化を進めてみるとよいでしょう。

派遣法の「3年ルール」について詳しくはこちら>

キャリアアップ助成金を使った派遣から正社員への受け入れ



実際にキャリアアップ助成金制度を使って派遣社員を正社員化する場合は、主に次の2つのケースが考えられます。

紹介予定派遣から正社員へ



紹介予定派遣から正社員へ転換する場合も対象となります。紹介予定派遣は、正規雇用を前提に6ヶ月間派遣社員として働く派遣社員です。6ヶ月間という期限があるため、有期雇用派遣労働者に分類されます。

紹介予定派遣からのキャリアアップは、派遣期間を短くできる「コロナ特例」にも該当されます。

派遣社員から正社員へ



就業中の派遣社員を正社員へ転換する場合は、まず派遣先会社が派遣元会社へ直接雇用の相談をします。このとき正社員雇用になったあとの要件(待遇)なども提示が必要です。

派遣会社から派遣社員へ説明と意向のヒアリングを実施し、双方が納得したうえで正社員化の手続きをおこなう流れとなります。

キャリアアップ助成金の申請方法と流れ

画像引用元:厚生労働省

申請の大まかな流れは次のとおりです。

  1. キャリアアップ計画の作成と提出
  2. 直接雇用制度を就業規則に規定
  3. 直接雇用制度に規定されたテスト等を実施
  4. 派遣社員を正社員に直接雇用
  5. 直接雇用後6ヵ月の賃金を継続的に支払い
  6. 申請書を作成して支給申請(審査のあと支給が決定される)

キャリアアップ助成金は、オンラインで申請が可能ですが、その前に「キャリアアップ計画」を作成し、ハローワークに提出する必要があります。作成の際は、労働組合等の意見も踏まえて作成します。申請書などはこちらからダウンロードが可能です。

キャリアアップ計画の作成や支給申請は、事業主支援アドバイザーによるサポートが受けられます。アドバイザーによるサポートに関しては、最寄りの労働客かハローワークに相談するとよいでしょう。

まとめ



キャリアアップ助成金の「正社員化コース」は、2023年11月より内容が拡充、要件が緩和されました。国が派遣社員などの非正規雇用労働者から、正規雇用労働者へ転換することを推進していることが伺えます。申請するために必要な書類などは多数ありますが、しっかり揃えて申請すれば助成金を受給できます。優秀な労働者を確保したい派遣会社や派遣先企業は、キャリアアップ助成金をかしこく活用してみてはいかがでしょうか。