2024年3月18日
派遣社員の教育訓練の内容とポイントについて
2015年9月の労働者派遣法改正で、人材派遣会社が派遣スタッフに教育訓練を受けさせることが義務化されました。派遣先企業は、2020年の同法改正により、教育訓練実施に対する「配慮義務」から「義務」に変更されました。
この記事では教育訓練の要件や実施方法について解説します。
派遣社員の教育訓練義務化|労働者派遣法改正の背景と内容
労働者派遣法は、1986年に施行されて以来、数回の改正を経てきました。当初は、産業界の要請から規制緩和の方向で改正が進められてきましたが、近年は派遣労働者の保護を図るための改正が主になっています。改正の背景には、労働市場のニーズの変化や社会情勢、労働者派遣事業での派遣労働者の雇用や生活の不安定さが社会問題化していた、などがあります。
この法律は、派遣労働者の保護や適正な派遣事業の運営を目指しており、労働市場のニーズに合わせて進化しています。
労働者派遣法改正の内容
2015年の9月に労働者派遣法が改正され、人材派遣業者は派遣スタッフへの教育訓練の提供を義務付けられました。さらに、2020年の同法の改正により、派遣先の企業は教育訓練の実施について、「配慮義務」から「義務」へと変わりました。
その前後では、以下のような改正が行われてきました。
● 1986年の施行当初は、派遣労働が可能な業務を13業務に限定するなど、その範囲は限定的なものでした。
● 1996年の改正では、対象業務が拡大され、26業務が対象となりました。
● 1999年の改正では、対象業務が原則自由化されるなどの規制緩和が大きく進みました。
● 2020年には派遣労働者が同種の業務に従事する正規雇用労働者と同等の待遇(賃金や福利厚生など)を受けられるよう定められた「同一労働同一賃金」の実現に向けた改正が行われました。
● 2021年にも2回の改正が行われ、教育訓練とキャリア・コンサルティングに関する説明の義務化など、派遣労働者の保護に関するルールが増えました。
教育訓練の目的と重要性
教育訓練は、派遣スタッフが新しいスキルや知識を習得し、自身の能力を向上させるための重要な手段です。教育訓練を通じて、派遣スタッフはより幅広い業務に対応できるようになり、結果としてキャリアアップの機会拡大につながります。
スキルと知識の向上
教育訓練を通じてスキルを向上させることで、派遣社員はより高度な業務を行うことができるようになり、生産性を高めることができます。派遣社員が効率的に業務をこなせるようになれば、組織全体のパフォーマンスも向上しますので、企業にとっても価値があります。
キャリアパスの多様化
教育訓練を受けた派遣社員は、さまざまな職種やプロジェクトに参加できるため、キャリアの選択肢が広がります。例えば、ITスキルを磨いたり、マネジメントの知識を深めたりすることで、キャリアパスを多様化させることができます。
雇用機会が広がる
教育訓練を受けた派遣社員は、新しいスキルを習得し、既存のスキルを向上させることができます。これにより、派遣社員はさまざまな業務に対応でき、幅広い雇用機会を探ることができます。
待遇改善につながる
待遇改善とは、給与の増加、より良い健康保険や退職金制度の提供、労働時間の短縮や柔軟な勤務スケジュールの導入などが含まれます。待遇改善は、社員のモチベーションを高め、生産性を向上させるとともに、優秀な人材の獲得と流出防止にも繋がります。
単に経済的な報酬を増やすことだけではなく、社員が仕事と私生活の両方で満足し、健康で幸せな生活を送ることができるよう支援することを意味します。企業にとっては、これらの取り組みが社員満足度の向上、離職率の低下、そして最終的には企業の競争力強化につながると考えられます。
派遣社員へ行うべき教育訓練
受講者にとって、教育訓練は時間的・経済的負担が大きいことがあります。
また、仕事や家庭との両立が難しい場合もあります。
派遣先が行う教育訓練
■ニーズに合わせた教育訓練
派遣先がニーズに合わせた教育訓練を提供することは、効果的な人材育成と業務遂行において非常に重要です。社員は異なるスキルや経験を持っています。派遣先が個々のニーズに合わせた教育プログラムを提供することで、従業員は自身のスキルを向上させることができます。その結果、モチベーションの向上、業務効率の向上、雇用の安定・拡大につながります。
■専門技術の習得
まず、業務に必要なスキルや知識を明確に整理します。習得すべき専門技術が明確なれば、あとは集合研修やOJT(実際に仕事を行いながらスキルを習得する)、eラーニングなどを用いながら派遣社員の専門技術習得をサポートします。
■ソフトスキルの強化
コミュニケーション能力、リーダーシップ、問題解決能力などのソフトスキルを向上させる訓練を行います。これにより、派遣社員はチームでの協力やクライアントとの円滑なコミュニケーションを図れるようになります。
■派遣先による均衡待遇の確保
派遣先が、派遣先の労働者に対して業務遂行に必要な能力を習得するための教育訓練を実施している場合、同様の業務に従事する派遣労働者に対しても、派遣元事業主からの要請に応じて、当該訓練を実施するよう配慮しなければなりません。また、派遣元事業主からの要請に応じて、派遣労働者が従事する業務と同様の業務に従事する派遣先の労働者の賃金水準についての情報を派遣元事業主に提供するよう配慮しなければなりません。
■教育訓練の費用は無償
派遣先企業は、業務に関連する教育訓練の全費用を負担する義務があります。ですので教育訓練の費用を派遣社員に請求できません。さらに、訓練時間は有給となるため、その期間の賃金を支払う必要があります。
■派遣先管理台帳での報告
教育訓練を実施した際、「派遣先管理台帳」に履歴を記載する必要があります。
派遣労働者の教育訓練の日時や内容を派遣先管理台帳に記載し、それを派遣会社に報告することは、労働者の適切な管理と透明性を確保するために重要です。これにより、派遣会社は労働者の状況を把握し、必要に応じてサポートを提供することができます。
また、法令遵守の観点からも、このような記録を残すことは必要とされています。派遣先管理台帳は、派遣期間終了日(派遣契約が更新された場合は、更新後の派遣期間終了日)から起算して3年間保存する必要があります。派遣先管理台帳を作成・保管しなかった場合、罰則もありますので注意しましょう。
派遣会社(派遣元)が行う教育訓練
2015年に改正された労働者派遣法により、派遣会社(派遣元)は派遣社員のキャリアアップを促進するために、年間8時間以上の教育訓練を実施する義務があります。教育訓練の対象は1年以上雇用見込みのある全ての派遣社員となります。
■業務に必要な教育訓練
派遣社員が具体的な業務を遂行するために必要な知識や技能を提供しなければなりません。例えば、特定のパソコンなどの操作方法、業界固有のルールや規定、コミュニケーションスキルなどが含まれます。
派遣先企業は、派遣会社(派遣元)が教育訓練の実施を希望した場合には、派遣社員が教育訓練を受けられるよう可能な限り調整・協力し、便宜を図るよう努めなければなりません。
■キャリアアップのための教育訓練
派遣会社(派遣元)は、派遣社員のキャリア形成を重視し、段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を策定をしなければなりません。また、雇用する全ての派遣社員が利用できるキャリアコンサルティングの相談窓口を設けなければなりません。
■教育訓練の費用は無償
派遣会社が提供する教育訓練の費用は、全額派遣会社が負担します。したがって、派遣社員や派遣先企業がその費用を支払う必要はありません。また、教育訓練期間中は労働時間とみなされるため、賃金の支払いが発生します。
■派遣元管理台帳に教育内容を記載
教育訓練を実施した場合、その内容を派遣元管理台帳に記載することは、労働者の教育訓練の履歴から、その進行状況を把握するために重要です。これにより、派遣会社は労働者の状況を把握し、必要に応じてサポートを提供することができます。派遣元管理台帳は、派遣期間終了日(派遣契約が更新された場合は、更新後の派遣期間終了日)から起算して3年間保存する必要があります。またこの台帳を作成しない場合、罰則もあります。
派遣社員への教育訓練を行うことのメリット
派遣会社のメリット
■人材確保とスキルアップ
教育訓練を提供することで、派遣社員のスキルが向上し、派遣会社の評判が向上します。これにより、優秀な人材を確保しやすくなります。
■離職率の低下
教育訓練を受けた派遣社員は、仕事にに対する満足度が高まり、離職率の低下が期待できます。これは派遣会社にとって人材流出・コスト削減にもつながります。
派遣先企業のメリット
■効率的な業務遂行が可能になる
教育訓練を受けた派遣社員は、仕事の効率が向上します。働く業界における適切なスキルを持つ派遣社員は、業務を円滑に遂行できるため、生産性も高まります。
■ロイヤリティの向上
教育訓練を実施することで、派遣社員のモチベーションが高まり、企業に対するロイヤリティも高まります。これは派遣先企業にとってもメリットがあります。
派遣社員への教育訓練の実施形式
派遣社員への教育訓練の実施形式には、主に以下のような形式があります。
集合研修
複数の派遣社員が集まり、座学での講義やグループディスカッションなどを行うプログラムです。派遣社員個々への研修が不要であるため、派遣社員の人数が多い企業が導入しやすいのが魅力です。
OJT(On the Job Training)
実際の仕事を通じて、実践的なスキルや知識を習得するプログラムです。日々の業務の中で、スキルアップを目指せます。
eラーニングとウェビナー(オンライン学習)
コンピュータやモバイルデバイス、そしてインターネットを活用して、教育を進めるプログラムです。デバイスがあればどこからでも教育訓練を受けられるため、派遣社員は自宅や移動中でも参加できるメリットがあります。
このeラーニングではLSM(Learning Management System)が活用すると効率的です。LSMは教育訓練の管理や実施を効率化するための学習管理システムです。一度作成した学習コンテンツは幅広く使用できるため、教育の質を均等に保つことができます。また学習状況を記録することもでき、受講者の進捗状況の把握にも役立ちます。
それぞれの実施形式にはメリット・デメリットがありますので、自社の状況や派遣社員のニーズに合わせて選択することが重要になります。
教育訓練給付制度の利用
教育訓練給付金制度は、労働者の能力向上を促進するために国が推進しているプログラムです。この制度は、厚生労働大臣が承認した教育訓練を完了し、雇用保険に加入している人々を対象としています。その目的は、受講者の費用の一部を補助することで、スキルアップを支援することです。給付金の対象となる教育訓練は、レベルなどに応じて、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類となっています。
まとめ
派遣社員への教育訓練の目的は、労働者のスキルと知識を向上させ、その職業生活を支援することです。これにより、派遣社員は新しい技術や業務プロセスを学ぶことができ、自己成長により、組織の目標達成にも貢献できます。また、教育訓練は労働者のモチベーションを高め、仕事の満足度を向上させる役割も果たします。
派遣社員に行う教育訓練には、派遣会社と派遣先企業の両者にとって多くのメリットがありますので、積極的に取り組みましょう。
労働者派遣法は今後も改正される可能性もあるため、最新の情報を確認することが大切になります。