2024年5月26日

パワーハラスメントの予防と職場環境の改善について



この記事では昨今深刻化しているパワハラの背景、対策方法などについて解説します。

厚生労働省では様々なハラスメントに対する情報を公開しています。

是非こちらのサイトもご覧ください。


日本におけるパワハラの現状について



令和5年度に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、日本の職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)の実態として、過去3年間のハラスメントの相談の有無は以下の通りとなっています。

令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書より


ハラスメントの種類別でみると、パワハラが64.2%と突出して多い状況で、深刻な社会問題になっています。


令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書より


相談件数の推移でみても「変わらない」が一番割合が高く、パワハラやセクハラが職場で依然として問題となっていることが分かります。企業は適切な対策を講じて、従業員の健康的な職場環境を実現することが求められています。


パワハラの定義と具体例(種類について)



労働施策総合推進法(パワハラ防止法)によると、パワハラは以下の3つの要件を満たす場合、パワハラに該当します。

・優越的な関係にもとづいて(優位性を背景に)行われる言動・行動

・業務の適正な範囲を超えて行われる言動・行動

・就業環境を害する、または身体的もしくは精神的な苦痛を与える言動・行動

パワハラは具体的に次の6つの類型に分類されます。パワハラはさまざまな形で起きます。

以下に、具体的なパワハラの類型とそれに該当する言動の例をまとめます。

身体的な攻撃

暴力的な行為や身体的な威嚇。(殴る、叩く、蹴るなど)

精神的な攻撃

威圧的な言葉、脅迫、侮辱、嫌がらせ。(皆の前での叱責、執拗な罵倒など)

人間関係からの切り離し

社交的孤立、情報の遮断、仕事の機会を奪う。(皆と別な席を用意される、コミュニケーションを取らないなど)

過大な要求

業務範囲を超えた過度な仕事量、無理な期限。(業務量的に遂行不可能な仕事の押し付けなど)

過小な要求

業務範囲を超えての過度な監視、細かい指示。(本人が持つ能力や経験とはかけ離れた、誰でもできる程度の仕事ばかりを命じられるなど)

個の侵害

個人的なプライバシーに対する侵害、差別的な発言や行動。(交際相手のことなどプライベートな話題について執拗に問われるなど)

労働環境の中で、自身がパワハラの被害者になるだけでなく、加害者になるケースもあるかもしれません。ですので、どのような行為・言動がパワハラに該当するのか、については正確に把握しておくことが大切になります。

パワハラが起きる原因について



パワハラは個人の意識によるものや、職場環境など様々な要因により生じます。

パワハラ対策を検討する前に、原因を知ることから始めましょう。

ここではパワハラがおきる原因についてまとめます。

慢性的な人手不足


慢性的な人手不足に伴い、個人の仕事量が増え、徐々にストレスが蓄積していきます。

そのストレスの蓄積が人間関係や社内環境の悪化につながり、パワハラリスクが高まります。

また人手不足はサービスの品質を下げるだけでなく、従業員のモラル低下にも繋がりますので、対策は急務となります。

コミュニケーション不足


人手不足の状況が続くと、おのずとコミュニケーションが十分に取れなくなりがちです。

コミュニケーション不足は、誤解やお互いの不信感を生み、パワハラの温床となります。

また、権限を持つ者(地位が高い)と部下とのパワーバランスが上手くいかないことで、職場が上手くいかない場合もあります。このような場合も、権限を持つ者(地位が高い)がパワハラに対する認識を改めることで、コミュニケーションがスムーズにいくケースもあります。

会社側の労務管理不足


会社側で適切な労務管理が行われていない(機能していない)場合、パワハラが軽視されたり、加害者が自覚していないケースも出てきます。そのため、事業主によるパワハラに対する方針の周知徹底含め、対策に取り組む必要があります。

強い被害者意識によるもの


近年、被害者の権利意識が高まっています。パワハラは業務の適正な範囲を超えた行為であり、違法なパワハラ行為を訴える権利を有しています。「被害者だから何をしても許される」という考えに陥る方もいるのが実情です。

パワハラは実態の把握が難しい



パワハラが発生した場合、状況に応じて適切に対応することが求められます。

しかしパワハラが起きた時の調査が難しいなど、その実態の把握にはいくつかの課題があります。

線引きの難しさ


パワハラの定義や行動類型は範囲が広く、パワハラ事案ごとに異なる要素が存在します。

指導との線引きや受け手の感じ方など、その判断が難しいという意見が多々見られます。

コミュニケーションのギャップ


言葉によるパワハラは意図せず、無自覚で行われることもあります。

例えば、指導や注意のつもりでも、受け取る側次第ではそれがパワハラと受け止めてしまうケースもあります。つまり意図せずにパワハラの加害者になる場合もあります。

経営層や管理職の理解不足


パワハラ対策を進める上での課題として、「管理職や経営層の理解の低さ」が挙げられます。

そもそも経営者層の認識や理解が低い場合、適切な対策が講じられない可能性もありますので注意が必要です。

基準の曖昧さ


パワハラの基準や境界が明確でないことも難しさの一因です。

暴力行為は明確に分かるものの、言葉によるパワハラは意識の問題となり、線引きが難しいことがあります。

法律によるパワハラ抑止



労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」は、中小企業の事業主にも義務化されています。具体的には、令和2年6月1日に「改正労働施策総合推進法」が施行され、令和4年4月1日より中小企業に対する職場のパワーハラスメント防止措置が義務化されました。

パワハラ防止法の内容と事業主の責務とは?



事業主は、職場のパワーハラスメントに関する問題に対して、雇用している労働者の関心と理解を深め、以下の措置を講じる責任が生じます。

・事業主の方針等の明確化および周知・啓発



パワハラを行ってはならない旨・行為者へは厳正に対処する旨などを、企業のトップから発信することが重要です。その際、なぜ重要なのか、理由についても伝えるようにすると、理解が進みやすくなります。

・相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備



相談窓口の整備、相談窓口担当者が適切に対応できるようにしましょう。

相談窓口担当者のマネジメント能力と適切な指導能力を高めることが重要です。どのような方法が適切なのかについて、マニュアルなどがあるとより効率的に対策を進めることができます。

相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を従業員に周知することも必要です。被害者が安心して相談できる体制を整得ることが重要です。

また、メンタルヘルス不調への相談対応も大切な取り組みですので、産業保健スタッフなどによる適切なケアを受けられるようにしましょう。

・職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応



事実関係の確認、速やかな被害者配慮の措置、行為者への措置などを迅速に行えるように準備をしておきましょう。

再発防止に向けた措置も必要です。予防策と再発防止策はセットで考えておく必要があります。

これらの対策を講じるとともに、相談したこと等を理由に、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することも行うことも求められます。


まとめ



パワハラには、身体的な暴力、精神的な圧力、人間関係の孤立、過剰な要求、過小な要求、個人のプライバシー侵害など、様々な形があり、その実態の把握も難しい現状です。特に精神的な圧力や人間関係の孤立が最も多く報告されています。

今後の課題としては、パワハラの根本的な解決に向けて、職場文化の改革や労働環境の改善が必要不可欠です。

多くの企業が相談窓口を設置をはじめ、パワハラ防止のために研修実施や、社内規定の見直しが図られています。しかし、これらの対策が形式的に行われている場合も多く、実効性の確保が課題となっています。

また、企業の対策強化だけでなく、労働者自身もパワハラに対する理解を深め、適切な行動を取ることが求められます。

日本におけるパワハラ問題は依然として根深く、企業や社会全体での継続的な取り組みが必要です。