2026年6月30日
派遣会社が今すぐ着手すべき「障害者雇用・法定雇用率」対応——2026年7月引き上げの実務ポイント

2026年7月、民間企業の障害者法定雇用率が現行の2.5%から2.7%へと引き上げられます。
対象企業の規模も「常時雇用37.5人以上」へ拡大するため、これまで雇用義務のなかった会社も新たに対象となる可能性があります。
人材派遣業は、スタッフ・取引先・稼働管理の情報が複雑に絡み合う業種です。
担当者が変わるたびに書類が行方不明になり、ハローワークへの申告が直前になってバタバタする……そんな経験はないでしょうか。
「うちだけがこんなに大変なのだろうか」と思っている担当者ほど、実は業界全体に共通する構造的な課題を抱えています。
この記事では、派遣会社が今すぐ取り組むべき障害者雇用対応の実務ポイントを、法律の基本知識から情報管理の仕組みづくりまで、ステップごとに解説します。
本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づいています。法令の最新情報については、厚生労働省のウェブサイトおよびハローワークにてご確認ください。
2026年の障害者法定雇用率引き上げで派遣会社が対応すべきこととは?

障害者雇用促進法に基づく法定雇用率は、5年ごとを目安に見直されてきました。2023年に行われた改正では、以下の2段階での引き上げが決定しています。
時期 | 民間企業の法定雇用率 | 雇用義務が生じる企業規模 |
2024年4月〜 | 2.5% | 常時雇用40人以上 |
2026年7月〜 | 2.7% | 常時雇用37.5人以上 |
2026年7月の引き上げにより、雇用義務の対象が「37.5人以上」へと広がります。
これまで対象外だった企業も含め、自社の常時雇用者数を早急に確認することが必要です。
派遣会社が特に注意すべき3点
1. 登録スタッフ数の変動リスク:スタッフの稼働・終了が頻繁に起きる派遣業は、常時雇用者数が毎月変動します。年間を通じて法定雇用率を下回らないよう、定期的なモニタリングが欠かせません。
2. 障害者手帳の有無や勤務形態(フルタイム・短時間)に応じた雇用状況の情報をExcelや紙でバラバラに管理していると、申告前の情報集約に多大な工数がかかります。
3. 引き継ぎ時の情報断絶:担当者の退職・異動の際、障害者雇用に関する書類や手続き情報が属人化していると、ロクイチ報告(毎年6月1日時点の雇用状況報告)に支障が出るリスクがあります。
派遣会社における障害者雇用の特殊性——派遣元・先それぞれの義務
障害者雇用促進法では、雇用関係のある事業主に雇用義務が発生します。
派遣スタッフの雇用主はあくまで派遣会社(派遣元)であり、就業先の派遣先企業との間には雇用関係はありません。
そのため、障害のある派遣スタッフは派遣元の雇用率にカウントされます。
逆に、派遣先企業が「障害者を受け入れているから自社の雇用率にカウントできる」という認識は誤りです。
派遣先企業側の注意点
派遣先には直接の雇用義務はありませんが、以下の点で間接的な関与が求められます。
● 合理的配慮の提供:就業場所である派遣先も、障害のあるスタッフが働きやすい環境を整える努力義務があります(障害者雇用促進法第36条の3)。
● 情報の適切な連携:障害に応じた業務調整や緊急時の対応方法について、派遣元との情報共有が不可欠です。
紹介予定派遣の場合は例外も
紹介予定派遣では、派遣期間終了後に派遣先企業が直接雇用することを前提としています。
派遣先で直接雇用が成立した時点で、以降は派遣先企業の雇用率にカウントされます。
障害者雇用率の達成を目指す派遣先企業にとっても、紹介予定派遣の活用は一つの選択肢となります。
どのスタッフが雇用率に算入できるか?(カウントの仕方)

雇用率の算定に算入できるのは、常時雇用労働者に該当する障害のあるスタッフです。
派遣会社の雇用形態別の扱いは以下のとおりです。
登録型派遣スタッフ(原則カウント対象外)
登録型派遣は、派遣期間中のみ雇用契約が発生する形態です。
雇用の継続性が担保されないため、原則として雇用率の算定対象にはなりません。
常用型(無期雇用)派遣スタッフ(カウント可)
無期雇用契約を締結している派遣スタッフは、以下の条件を満たす場合にカウント対象となります。
● 1年以上継続して雇用されている、または1年以上の雇用見込みがあること
● 週の所定労働時間が20時間以上であること
勤務形態別のカウント方法
勤務形態 | カウント数 |
フルタイム(週30時間以上)の身体・知的障害者(重度以外) | 1人=1カウント |
重度身体障害者・重度知的障害者(フルタイム) | 1人=2カウント |
短時間労働者(週20〜30時間未満)の障害者 | 1人=0.5カウント |
重度身体・知的障害者の短時間労働者 | 1人=1カウント |
精神障害者(フルタイム) | 1人=1カウント |
精神障害者(短時間) | 1人=0.5カウント |
※週10〜20時間未満は、精神障害者・重度身体障害者・重度知的障害者のみ0.5カウントとして算入可(2024年4月〜)。それ以外の障害種別は週20時間以上が必要。
障害種別と手帳の確認
カウントの対象となる障害者は、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳のいずれかを所持している方です。
手帳の有無を適切に把握・記録し、更新時期にも注意が必要です。
対応が遅れた場合のペナルティと社会的リスクとは?

法定雇用率を達成できない場合、以下のような措置が段階的に取られます。
① 障害者雇用納付金の徴収 常時雇用労働者が100人を超える事業主で雇用率が未達の場合、不足する障害者1人あたり月額5万円の納付金が徴収されます(100人以下の企業は徴収対象外)。
② ハローワークからの行政指導 雇用率が全国平均実雇用率を下回り、不足数が一定以上の場合、「障害者雇入れ計画作成命令」が発令されます。2年間で法定雇用率を達成するための計画を作成・実行することが求められます。
③ 企業名の公表 特別指導を受けても改善が見られない場合、障害者雇用促進法第47条に基づき、厚生労働省のウェブサイトなどで企業名が公表されます。
企業名公表による社会的リスク
企業名公表は経済的な罰則ではありませんが、実務上の影響は無視できません。
- 採用ブランドへのダメージ:求職者への印象が悪化し、一般採用にも影響する可能性があります。
- 取引先・クライアントへの悪影響:特にコンプライアンスを重視する企業との取引において、マイナス評価につながるリスクがあります。
- スタッフ・社員の士気低下:社内外への信頼性が損なわれます。
直近の調査では、「2.7%の達成は困難」と感じている企業が6割に上るとも言われています。早期に体制を整えることが、競合他社との差別化にもつながります。
障害のあるスタッフが長く活躍できる職場環境・業務設計のポイントとは?
「合理的配慮」とは、障害のある方が就労する際の支障を取り除くための調整のことです。
過度な負担とならない範囲で、事業主(および就業場所となる派遣先)が対応することが求められます。
派遣会社として具体的に取り組みやすい合理的配慮の例を以下に示します。
コミュニケーション面 | ● 業務指示を口頭だけでなく、文書やチャットツールでも伝える ● 作業手順をイラスト・フローチャートで可視化する ● 定期的な面談・チェックインの機会を設ける |
業務設計面 | ● スキルや体調に合わせた業務範囲の設定(スコープの明確化) ● 繁忙期の業務量調整について派遣先と事前に取り決める ● 緊急時の相談窓口を明確にしておく |
就業環境面 | ● 通院・服薬のための休憩や時間外利用への配慮 ● 派遣先でのバリアフリー対応について確認・交渉する |
定着率を高めるための「寄り添い型支援」
障害者雇用の課題として多くの企業が挙げるのが早期離職です。採用できても定着しなければ、雇用率の維持も困難になります。
定着支援のために有効なアプローチとして、以下が挙げられます。
- 就労支援機関との連携
障害者就業・生活支援センターやジョブコーチとの連携により、スタッフのサポート体制を外部から補完できます。
- キャリアパスの明示
将来的な業務拡大・役割変化の見通しを示すことで、モチベーションの維持につながります。
- 定期的な状況確認
就業状況・体調・職場との関係性について、月次など定期的に面談を実施します。
記録管理・申告業務を「仕組み」で回す
現状、多くの派遣会社では障害者雇用に関する情報を次のような形で管理しています。
- ● 担当者が作成したExcelファイル(共有されていない)
- ● 手帳のコピーをスキャンして個人フォルダへ保存
- ● 申告前に担当者が1から集計・確認
これらの問題点は担当者が変わった瞬間に、情報の連続性が失われるということです。
特に「ロクイチ報告(毎年6月1日)」や「障害者雇用納付金の申告」は、前年からの継続情報が必要なため、引き継ぎ漏れが直接的なミスにつながります。
派遣管理システムで実現できる「情報管理基盤」
こうした属人化の問題を根本から解消するのが、派遣管理システムを活用した情報管理基盤の整備です。
障害者雇用に関する情報を「担当者の頭の中やローカルPC」から切り離し、組織として管理・参照できる状態にすることが目的です。
| 情報の一元管理と検索性の向上 | スタッフごとの情報をシステム上に集約・登録し、条件を指定してすぐに検索・参照できる環境を整えることで、申告直前の「どこに何があるかわからない」状態を防ぎます。 障害者雇用に関連する情報も、スタッフ情報の一部として一元管理できます。 ファイルを探し回る時間が担当者の大きな負担になっていた業務を、大幅に効率化できます。 |
| 属人化の防止と担当者交代時の引き継ぎ | 紙やExcelによる個人管理では、担当者の退職・異動のたびに情報の所在確認から始めなければならず、引き継ぎコストが組織全体にのしかかります。 システム上で情報が一元管理されていれば、担当者が替わってもアクセス権限を付与するだけで業務を継続できます。 「その人しか知らない」情報をなくすことが、安定した申告業務の基盤になります。 |
| 複数拠点での情報共有 | 複数の営業拠点を持つ派遣会社では、拠点ごとにバラバラな管理が行われがちです。 クラウド型のシステムであれば、本部と各拠点が同じ情報をリアルタイムで参照・更新できます。 在宅勤務の担当者も同様にアクセスできるため、場所を問わず情報共有が可能になります。 ロクイチ報告など、複数拠点の情報を集約して申告する場面でも、情報収集にかかる手間を大幅に削減できます。 |
まとめ:障害者雇用への積極対応が、採用力・企業ブランドを高める
法定雇用率の引き上げは、一見すると企業への負担増として映るかもしれません。
しかし、対応が先進的な企業ほど、障害者雇用を次のような観点からポジティブに活用しています。
- ● 採用市場での差別化:障害者雇用に積極的な企業は、就職・転職市場において「多様性を尊重する企業」として評価されます。
- ● 人材の定着率向上:合理的配慮の整備は、障害のあるスタッフだけでなく、すべての社員が働きやすい職場環境の構築につながります。
- ● ESG・社会的責任への対応:上場企業や大手企業との取引を行う派遣会社にとって、ESG観点での評価向上は中長期的な競争優位につながります。
今すぐ取り組める3ステップ
▼Step 1 現状把握(今月中)
自社の常時雇用者数を確認し、2026年7月時点で雇用義務の対象になるかどうかを確認する。現在の実雇用率を算出し、目標との乖離を把握する。
▼Step 2 情報の棚卸しと整理(1〜2ヶ月以内)
障害のあるスタッフに関する情報がどこに・どの形式で存在しているかを整理する。担当者の異動・退職が生じた場合に情報が引き継げる状態か確認する。
▼Step 3 管理体制・ツールの見直し(3ヶ月以内)
クラウド型の派遣管理システムへの移行を検討し、情報の一元管理と引き継ぎ体制の整備によって、担当者依存の業務運営から脱却する仕組みを構築する。
2026年7月まで、時間は限られています。「担当者が変わっても業務が止まらない」情報管理の仕組みを今から整えることが、コンプライアンス対応と企業の持続的成長の両立への近道です。
本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づいています。法令の最新情報については、厚生労働省のウェブサイトおよびハローワークにてご確認ください。

