2026年8月20日
【2026年10月施行】派遣法改正とは?待遇差説明の明示義務と書式改訂を実務目線で解説

「また法改正への対応か……」
法務専任者を置かず、人事・労務担当が実務と兼務で法改正対応にあたっている派遣会社では、そう感じた方も多いのではないでしょうか。2026年10月1日、労働者派遣法の実務に直結する改正が施行されます。
今回は法律本体の大改正ではありませんが、雇入れ時・派遣時に交付する書類そのものを直す必要があるという点で、対応の緊急度は決して低くありません。
柱となるのは、交付書類に「待遇差の説明を求めることができる旨」を明示する義務化です。
あわせて、同一労働同一賃金ガイドラインも2020年の施行以来はじめて改正され、退職手当や家族手当など待遇に関する記載が充実・追加されました。
「何が変わるのか」「どの書類を、いつまでに、どう直せばよいのか」
この記事では、限られた人員・時間の中でも迷わず対応できるよう、改正の位置づけから改訂書類、既存スタッフへの対応、10月1日までの準備スケジュールまでを、実務担当者がそのままチェックリストとして使える形で整理しました。
今回の改正の位置づけ|「同一労働同一賃金」施行5年後見直し
労働者派遣法における「同一労働同一賃金」規定(派遣法第30条の3・第30条の4)は、2020年4月に施行されました。
「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかにより、派遣労働者と正社員との間の不合理な待遇差を解消することを目的とした制度です。
施行から5年が経過したことを受け、厚生労働省の労働政策審議会(職業安定分科会・雇用環境・均等分科会 同一労働同一賃金部会)で2025年2月から2026年3月にかけて見直しの審議が行われました。
この結果を踏まえ、2026年4月28日に厚生労働省令第87号および告示4件(第200〜203号)が公布・告示され、2026年10月1日に施行・適用されます。
ここで実務担当者が押さえておくべき最も重要なポイントは、今回の改正は、労働者派遣法そのものの大幅な改正ではなく、施行規則や派遣元・派遣先指針、同一労働同一賃金ガイドラインなどが改正されるものです。
そのため、次のような制度の骨格自体は変更されません。
現行維持される主な制度 | 内容 |
3年ルール(期間制限) | 同一の組織単位への派遣は原則3年が上限。今回の改正で撤廃されない |
日雇い派遣の原則禁止 | 30日以内の有期雇用による派遣は引き続き原則禁止 |
許可制 | 労働者派遣事業には厚生労働大臣の許可が引き続き必要 |
待遇確保の2方式 | 「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」の枠組み自体は維持 |
「3年ルールがなくなった」「日雇い派遣が解禁された」といった誤情報がSNS等で広がりやすいタイミングでもあるため、社内説明や派遣スタッフへの周知の際は、制度の骨格は変わらず、同一労働同一賃金の”実効性”を強化する改正であることを正確に伝えることが重要です。
何が変わる?改正の柱を整理
2026年10月施行の改正では、雇入れ時・派遣時の明示事項の追加や、同一労働同一賃金ガイドラインの内容の明確化など、派遣会社の実務に関わる見直しが行われます。
柱1:待遇差説明を求められる旨の明示義務化(最重要ポイント)
現行制度でも、派遣労働者から待遇差の説明を求められた場合に派遣元が説明する義務は存在します(派遣法第31条の2第4項)。
しかし、これはあくまで派遣労働者からの申し出があって初めて発生する「受け身」の義務でした。
今回の改正では、派遣労働者を雇入れる際、および労働者派遣を行う際に交付する書類に、「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」をあらかじめ明記することが義務付けられます。
つまり、権利の存在を派遣元側から能動的に告知する仕組みへと変わります。
項目 | 改正前 | 改正後(2026年10月1日〜) |
説明義務の性質 | 求めがあった場合にのみ説明(受動的) | 書類上で権利の存在を明示(能動的告知) |
明示のタイミング | 規定なし | 雇入れ時・派遣時の交付書類に記載 |
実務上は、労働条件通知書や就業条件明示書に「待遇差について説明を求めることができます。ご希望の場合は下記までご連絡ください」といった趣旨の一文を追加する対応が中心になります。
ただし文言を追加するだけでは不十分で、実際に説明を求められた際に、職務内容の違い・配置転換の範囲の違い・勤続年数やスキルといった具体的根拠をもとに、納得感のある説明ができる体制を整えておくことがセットで求められます。
「派遣元の規定で決まっている」といった抽象的な回答では対応不足とみなされるおそれがあります。
柱2:同一労働同一賃金ガイドラインの改正(待遇に関する記載の充実・追加)
「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン)も、2020年4月の施行以来はじめて改正されます。
厚生労働省が公表している改正リーフレットによると、今回の改正では計9つの待遇について記載が見直されており、内容は「新たに追加された待遇」と「記載が充実された待遇」の2種類に整理されています。
| 区分 | 対象の待遇 |
新規追加 | 退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇、褒賞 |
| 記載の充実 | 賞与、病気休職、福利厚生施設 |
いずれも「新たに支給義務が生じた」という意味ではなく、不合理な待遇差と判断される可能性がある考え方や具体例が、ガイドライン上でより具体的に示されたという位置づけです。
例えば住宅手当については、転居を伴う配置転換の有無に応じて支給している場合、正社員と同一の配置転換があるパート・有期雇用労働者や派遣労働者にも同一の住宅手当を支給する必要がある旨が新たに示されました。
夏季冬季休暇についても、正社員と同一の休暇を付与しなければならないことが明確化されています。
賞与・退職手当については、労務の対価の後払いや功労報償といった支給趣旨が妥当する場合、正社員との職務内容等の違いに応じた均衡のとれた支給を行わないと不合理と判断される可能性がある、という考え方が示されています。
これらは派遣先均等・均衡方式・労使協定方式のいずれを採用している場合でも、派遣労働者に直接関わってきます。
派遣先均等・均衡方式の場合は派遣先正社員との待遇差の説明根拠として、労使協定方式の場合は協定内容そのものに、これらの視点が反映されているかが点検対象になります。
なお、これは「退職手当や家族手当を全員に支給する義務が新設された」という意味ではありません。
長期にわたり契約更新を重ねている派遣労働者について、支給しない理由を合理的に説明できる状態にしておくことが求められている、と理解するのが実務的には正確です。
柱3:公正な評価に基づく待遇改善の考え方を明確化
今回の改正では、派遣労働者の待遇改善を図る観点から、職務の成果等の評価や教育訓練、キャリアコンサルティング、就業機会の確保・提供などを通じて、派遣労働者の待遇改善につなげる考え方が明確化されています。
派遣会社では、派遣労働者の職務の成果等を適切に評価するとともに、教育訓練やキャリア形成の機会を提供し、その成果や能力の向上が待遇改善につながるような仕組みを整えておくことが重要です。
また、待遇差について説明を求められた場合に、「なぜこの待遇になっているのか」を具体的に説明できるよう、待遇を決定する基準や考え方を社内で整理し、説明できる状態にしておきましょう。
あわせて改正される派遣元指針・派遣先指針
2026年4月28日には、派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(派遣元指針)、派遣先が講ずべき措置に関する指針(派遣先指針)も同日付で改正告示されています。
改正の趣旨は、公正な評価に基づく待遇改善の促進、待遇差説明の実効性向上、派遣労働者への制度周知の強化です。
条文レベルの細部は厚生労働省の告示原文で確認するのが確実ですが、「派遣元・派遣先の双方に、待遇差説明をきちんと機能させる責任がある」という方向性を押さえておきましょう。
確認しておきたい書類|雇入れ時・派遣時の明示事項

今回の改正では、雇入れ時・派遣時に交付する書類について、明示事項の追加が必要となります。
実務担当者にとって特に確認しておきたいのが、以下の書類です。
書類 | 根拠 | 改訂内容 | 対応期限 |
雇入れ時の労働条件通知書 | 労働基準法・派遣法関連省令 | 「待遇差の説明を求めることができる旨」を追記 | 2026年10月1日以降の雇入れ・派遣から |
派遣時の就業条件等の明示書(派遣法第34条に基づく書面) | 派遣法第34条 | 同上 | 2026年10月1日以降の派遣から |
加えて、同じ省令改正でパートタイム・有期雇用労働法施行規則も同時に改められており、パート・有期雇用労働者を雇入れる際の書類にも同様の明示義務が課されます。
派遣スタッフだけでなく自社の直接雇用スタッフも抱える派遣会社は、両方の書式を並行して見直す必要がある点に注意してください。
チェックリスト(様式改訂編)
- ● 雇入れ時の労働条件通知書に「待遇差説明請求権の告知」文言を追加したか
- ● 派遣時の就業条件等の明示書(派遣法第34条書面)を改訂したか
- ● 改訂後の様式を、2026年10月1日以降の雇入れ・派遣時から実際に使用できる状態にしたか
- ● パートタイム・有期雇用労働者向けの雇入れ時書類も同様に改訂したか
- ● 説明を求められた際に回答する担当窓口・エスカレーションフローを社内で決めたか
様式への文言追加自体は難しい作業ではありませんが、「営業担当が使う派遣時書面」「人事が使う雇入れ時書面」「拠点ごとの独自フォーマット」など、社内に複数の様式が併存しているケースでは、改訂漏れが起きやすいポイントです。使用中の全様式を一度棚卸しすることをおすすめします。
既存スタッフへの対応は?更新時・新規雇入れ時の実務
すでに就業している派遣スタッフについて、「今回の改正に合わせて全員に書類を交付し直す必要があるのか」という質問は、実務担当者からよく挙がる疑問です。
結論として、施行日(2026年10月1日)より前に雇入れを行った既存スタッフについて、遡って明示し直す義務はありません。
改訂後の様式が必要になるのは、施行日以降に新たな雇入れや労働者派遣を行うタイミングからです。
ただし、施行前であっても「待遇差について説明してほしい」と申し出があった場合に説明する義務自体は、これまでどおり継続します。
実務上の対応フローとしては、次の手順が有効です。
1. 新規雇入れ・派遣のスケジュールの洗い出し
2026年10月1日以降に新規雇入れや新たな労働者派遣が発生するスタッフを特定する
契約更新の予定があるスタッフについても、更新に伴って新たな明示が必要となるかを確認する
2. 新様式の適用タイミングを明確化
更新のたびに新旧の様式が混在しないよう、10月1日を境に新様式へ切り替えるルールを社内周知する
3. 待遇規程の点検
特に複数回の契約更新を重ねている、または期間の定めのない雇用への転換対象となるスタッフについて、退職手当・家族手当・夏季冬季休暇などガイドラインで新たに焦点化された待遇の支給状況を確認する
4. 不支給・不付与がある場合の理由の文書化
合理的な説明ができない場合は制度設計の見直し(支給対象の拡大、金額の調整、退職金相当額の賃金上乗せや外部積立への切り替えなど)を検討する
5. 労使協定方式の場合は協定内容の再確認
令和8年度の一般賃金水準を満たしているか、次回の協定更新に向けて確認する
特に「長期間にわたり契約を更新し続けているスタッフ」は、ガイドライン改正で焦点化された退職手当や夏季冬季休暇などの待遇差が問題視されやすい層です。
契約更新のタイミングで書式を切り替えるだけでなく、待遇そのものの点検も同時並行で進めることが、施行後のトラブルを避ける鍵になります。
10月1日までの準備スケジュールと帳票作成への対応
施行日までの残り期間を踏まえ、逆算での準備スケジュールを整理します。
時期 | やるべきこと |
〜8月 | 現行の交付書類・雇用契約書テンプレートの棚卸し、改正内容の社内共有 |
9月上旬 | 労働条件通知書・就業条件等の明示書の新様式を確定、社内承認 |
9月中旬 | 新様式へのシステム反映・拠点間での様式統一、説明対応フローの整備 |
9月30日まで | 新様式のテスト運用、担当者への周知・研修 |
10月1日〜 | 新様式での雇入れ・派遣を開始。待遇差の問い合わせに対応できる体制で運用開始 |
8月 棚卸し
9月上旬 新様式確定
9月中旬 反映・統一
9/30まで テスト運用・周知
10/1〜 新様式で運用開始
この準備で実務担当者の負担が大きくなりやすいのが、「様式を直したつもりが、一部の拠点や一部のスタッフに旧様式のまま交付してしまう」というヒューマンエラーです。
特に、Excelや紙ベースで雇入れ時・派遣時の書類を作成している派遣会社では、担当者ごとにファイルのバージョンが異なり、改訂漏れに気づかないまま10月を迎えてしまうリスクがあります。
こうしたリスクを避けるには、法改正によって帳票の記載項目が変更された際にも、必要な項目を反映した帳票を適切に作成できる環境を整えておくことが重要です。
派遣管理システムを導入している場合、労働条件通知書や就業条件明示書などの帳票をシステムから出力できるため、法改正によって新たな記載項目が追加された場合にも、必要な項目を見直したうえで帳票作成できます。
例えば今回の改正では、待遇差の説明を求めることができる旨の明示が必要となるため、対象となる帳票について新たな記載項目への対応が必要です。
派遣管理システムを活用することで、スタッフ情報や契約情報など、システム上で管理している情報をもとに必要な帳票を作成できるため、法改正のたびにExcelやWordの書式を個別に修正し、手作業で情報を転記するといった負担の軽減につながります。
派遣会社では、法改正の内容を確認し、必要な帳票や記載項目を見直しておくことが重要です。
あわせて、変更後の帳票をスムーズに作成できる環境を整えておくことで、担当者の負担軽減にもつながります。
【法改正による帳票の変更に対応】
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よくある質問(FAQ)
- 1. 2026年10月の改正は、派遣法という「法律」自体が変わるのですか?
いいえ。2026年4月28日に公布されたのは厚生労働省令第87号と告示4件(第200〜203号)で、施行規則とガイドラインレベルの改正です。3年ルールや許可制など、法律本体に定められた制度の骨格は変わりません。
- 2. 「待遇差の説明を求められる旨」の明示は、どの書類に、いつまでに記載すればよいですか?
雇入れ時の労働条件通知書と、派遣時の就業条件等の明示書(派遣法第34条書面)の2種類です。2026年10月1日以降の雇入れ・派遣から新様式を使う必要があるため、対応期限は実質2026年9月30日までと考えておくのが安全です。
- 3. すでに働いている派遣スタッフ全員に、書類を交付し直す必要がありますか?
新様式が必要になるのは、施行日以降に新規雇入れや新たな労働者派遣を行うタイミングからです。契約更新については、更新の内容や新たな明示が必要となるかを確認したうえで対応して下さい。
- 4. 退職手当を派遣スタッフ全員に支給しなければならなくなったのですか?
一律の支給義務が新設されたわけではありません。長期にわたり契約更新を重ねているスタッフへの一律不支給が「問題となる例」として明確化されたため、不支給とする場合は合理的な理由を説明できる状態にしておく必要がある、というのが正確な理解です。
- 5. 労使協定方式を採用している場合、何を確認すればよいですか?
協定賃金が、令和8年度の一般賃金水準を、職種・地域・能力・経験等に応じた基準に沿って満たしているかを確認してください。
まとめ:まず動くべき3つのポイント
2026年10月1日の施行まで、派遣元事業主が優先して着手すべきことは次の3点です。
1. 雇入れ時・派遣時の交付書類に「待遇差説明を求める権利がある旨」を追記する(9月30日までに完了させる)
2. 退職手当・家族手当・夏季冬季休暇など、ガイドラインで新たに焦点化された待遇の支給状況を点検し、不支給の場合の理由を整理しておく
3. 労使協定方式の場合は、令和8年度の一般賃金水準を満たしているか確認し、必要に応じて労使協定の内容を見直す
今回の改正は法律本体の大改正ではないものの、書式改訂と待遇規程の点検という「実務そのもの」に直結する内容です。
法務専任者がいない体制であっても、必要な帳票や記載項目を整理し、変更後の帳票をスムーズに作成できる環境を整えておくことで、限られた人員でも確実に対応を進めることができます。
なお、個別の書式の適法性や待遇差の合理性判断については、本記事の内容にとどまらず、社会保険労務士など専門家への確認もあわせて行うことをおすすめします。
参考にした主な公的情報
- 厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」
- 厚生労働省 同一労働同一賃金 法律・省令・告示・通達一覧ページ
- 厚生労働省令第87号、告示第200〜203号(令和8年4月28日公布)
- 厚生労働省職業安定局長通達「職発0825第1号」(令和8年度 一般賃金水準)
※本記事は2026年8月時点で公開されている情報をもとに作成した一般的な解説です。個別の判断にあたっては、最新の法令・告示原文および所轄の都道府県労働局、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

